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第146回芥川賞と直木賞の選考会が17日夜、東京で開かれ、芥川賞に円城塔さんの「道化師の蝶(どうけしのちょう)」と田中慎弥さんの「共喰い(ともぐい)」が選ばれました。また、直木賞に葉室麟さんの「蜩ノ記(ひぐらしのき)」が選ばれました。 芥川賞の受賞が決まった円城塔さんは、札幌市出身の39歳。大学を卒業後、コンピューター関連の会社でエンジニアを勤めながらSF小説などの執筆を続け、平成19年に文學界新人賞を受賞してデビューしました。受賞作の「道化師の蝶」は、さまざまな言語を操る謎の作家や「架空の蝶」などが登場します。場所や時間や登場人物が複雑に絡み合いながら物語が進む円城さん独特の前衛的な作品です。また、同じく芥川賞の受賞が決まった田中慎弥さんは、山口県下関市出身の39歳。地元の工業高校を卒業後、執筆活動を始めて平成17年にデビューしました。土地とのしがらみや人間の内面を見つめる作品を中心に発表を続け、平成20年には三島由紀夫賞と川端康成文学賞を受賞して話題を集めました。芥川賞は5度目の候補で受賞となりました。受賞作の「共喰い」は川沿いの町に暮らす17歳の少年が主人公です。父親を嫌悪する少年が性に目覚めるなかで、自分の中にも父親と同じ暴力的な衝動があることに葛藤する姿を描いています。さらに、直木賞の受賞が決まった葉室麟さんは、北九州市出身で60歳。大学を卒業後、地方新聞の記者を経て、50歳を過ぎて本格的に小説を書き始め、平成17年にデビューしました。歴史上の人物を描いた作品を多く手がけ、直木賞は5度目の候補で受賞となりました。受賞作の「蜩ノ記」は、江戸時代に、ある事件がもとで10年後の切腹を命じられ、山村に幽閉されている元「郡奉行」の男と若い武士との交流を描いた物語です。若い武士が、かつての事件の真相を探るなか、限られた命のなかで清廉な生き方を貫こうとする男の姿をりんとした筆致で描いています。
芥川賞の受賞が決まった円城塔さんは記者会見で、「選考には大変大胆な決断があったのではないかと思います。私の小説は奇妙な小説と言われることが多いが、その方向でやっていけと言われた気がします」と喜びを語りました。そして、難解と言われる自らの小説について、「ことばとは何かということを考えていたらああいう小説になりました。読めない方がいるのは私の力不足と言うしかなく、より多くの人に読まれるよう精進したい」と話していました。
5回目の候補で芥川賞の受賞が決まった田中慎弥さんは記者会見で、「何度もアカデミー賞の候補になって最後に受賞した女優が『受賞は当然』と言ったと思いますが、大体そういう感じです。母はよかったねおめでとう、とだけ言ってくれた」と話していました。
5回目の候補で直木賞を受賞した葉室麟さんは、記者会見で、「5回目で受賞というのは長いことは長いが一回一回がありがたかった。ただ、直木賞は大きな賞でプレッシャーが強かったので、これで候補にならなくて済むとほっとしています」と喜びを語りました。また、「受賞作の設定はあと10年の命となっていますが、私と同じ60歳くらいになると誰もが思うことで、自分の思いの形としてこの作品がありました。読者からも思いが届いているという反応があったので、この作品で受賞できたのはうれしい」と話していました。 |